市場調査は重要ですが、その結果を鵜呑みにしてはいけません。
なぜなら本物のブレイクスルーを生み出す製品やサービスは市場のユーザーが気づいていない問題を解決することで実現されるからです。
検索エンジンやインターネットのブロードバンドサービスを提供しているエキサイト@ホーム(Excite@home)はインターネットの黎明期にテレビの同軸ケーブルをブロードバンド回線に転送する技術をベースとして登場した企業でした。
これに対してテレビ会社が実施した市場調査では、市場の多くのユーザーがインテルの80286や80386というプロセッサを搭載したPCを使っているという結果が出ました。
エキサイト@ホームの技術はこれらのプロセッサに対応していませんでした。
このため、テレビ会社はこれらのプロセッサにも対応させることを強く望みました。
しかし、エキサイト@ホームの技術者はこれらの古く処理能力が低いプロセッサをブロードバンドに対応させたところで意味がなく、対応させたところで不満を持つ人が続出すると考えていました。
また、ムーアの法則に従って半導体の性能が2年で2倍になっていため、近い将来、速度が遅い古いパソコンは市場から消えると考えていました。
実際、テレビ会社が行った市場調査ではこれらの要点が抜け落ちていたため、エキサイト@ホームが下した市場調査結果には従わないという判断は正しいものになりました。
エキサイト@ホームは常に成功を勝ち取っていたわけではありません。
ある市場調査では潜在顧客に対してインターネットを契約する際にもっとも重視していることは何かと訊ねたところ「速度」という回答が出ました。
そこでマーケティングでは「速度」を売り文句としましたが、結果はパッとしないものでした。
というのも、ユーザーの障壁になっていたのは速度ではなく、接続の手間や接続時の音が不快というもだったためです。
これはそもそも潜在層のユーザー自身がそのことに気付いていなかったため市場調査で顕在化しなかったものです。
市場調査の結果は参考の一つでしかありません。本当に必要なのは顧客のニーズを読み取ることです。
自動車を普及させたアメリカの起業家 ヘンリー・フォードは次のように語っています。
もし顧客の要望を聞いていたら、早い馬を探しにいっていただろう
車がない時代に「今の馬車に何を求めますか?」と聞きまわったら、その市場調査の結果は当然「もっと早い馬が欲しい」となります。
ですが、本当に欲しいのは「もっと早い乗り物」で馬である必要はないのが本音です。
長期的な成功を成し遂げるためには、他社と比較して自社の商品やサービスに技術面でのアイディアや個性が発揮されていることが重要です。
戦い方や見せ方を変えるという方法は、短期的には効果を発揮するものの、簡単に真似されてしまい最終的には企業を成功に導く商品にはなりえません。
企業独自のアイディアや個性が盛り込まれていない商品は、見せ方や企業のネームバリューで一時的に注目を集めることはありますが、すぐに失速してしまいます。
商品やサービスの方向性を決めたり、会社の戦略を考えるときには技術者ではなく、スーツを着た人たちが主導する傾向があります。
ですが、そうした場合イノベーションは生まれにくくなります。イノベーションを起こすのは実際に手を動かし作り上げる人たちです。
イノベーションを作るための基本は組み合わせることです。
特に昨今であれば今まであった建築、農業、医療といった既存の事業とITを掛け合わせることで新しいソリューションを生み出すことが可能になります。
ITのように新しい技術を使う必要はありません。もともとある技術を活用することでも新しいソリューションは生まれます。
例えば、蒸気機関は急に発明されたわけではなく、炭鉱から水をくみ上げる手段として使われていました。
娯楽や緊急時の連絡手段として広く普及しているラジオは、もともとは娯楽のためではなく、陸と船の通信手段でしかありませんでした。
ベル研究所が開発したレーザーは今では治療や解析などあらゆるところで活用されていますが、開発当初の評価は著しく低く特許すら取得されていない状態でした。
インターネットももともとはアメリカの軍事目的で開発されたものでした。それが今日ではYoutubeで動画を見たり、Amazonで買い物をしたり、映画を見たり、人とつながったりといったように、あらゆる娯楽や商売へとつながっています。
また、Googleでは若者などの特定の利用者に対してアダルト画像を表示させないためのセーフサーチ機能を開発しました。このときに開発された技術がキーワード単位の検索ではなく、より口語的な検索ワードに適切な検索結果を返す機能や、画像検索へと発展しました。
「技術的なアイディアをベースにして、それを組み合わせることで新しいソリューションを生み出す」と言う事は簡単です。
ですが、言うは易し行うは難しです。
実際Googleでは、商品のプロジェクトマネージャーに「あなたの商品の土台となる技術的なアイディアは何かを数行でまとめよ」と指示をだしたところ、その問いかけに答えられた人は数人しかいませんでした。
この記事の内容はGoogleの経営陣 エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグル、ラリー・ペイジの共著「How Google Works ―私たちの働き方とマネジメント」の内容の一部抜粋と要約です。
一国家と同等な資金を持ち、世界中で知らない人はいないほどのGoogleという大成功企業の中で、
などなど、これからの時代に欠かすことのできない内容がギッシリ詰まった一冊です。堅苦しくなくユーモアがあり読みやすい文体ですので、ぜひ一読されることをお勧めします。