それぞれの会社には独自の企業文化があります。その企業でしかやっていない事や、その企業でしか通じない言葉など様々です。
会社を作る時に企業文化は軽視されがちですが、1日や人生の大半の時間を仕事で費やす人たちにとって、実は企業文化こそが最も重要といえます。
なぜなら企業文化に合った人が集まり、そうでない人は抜けていくのが組織の常だからです。
ここでは企業文化の重要性と作り方についてまとめています。
企業文化とは会社の事業内容と価値観とも言い換えることがでいきます。
人々は事業内容や価値観に魅かれて企業を志望し入社します。そしてその中の文化にあった人が残り、そうでない人たちは自ら抜けていくからです。
アメリカの組織心理学者 ベンジャミン・シュナイダーが発表した論文の中で次のような理論が唱えられています。
企業文化は中にいる人たちの個性や選択によって創られ、その企業文化を好む人たちが採用に応募し、そして、中にいる従業員は自分たちの企業文化に合った人を採用します。
組織の中から人がいなくなる時は決してランダムに辞めていくのではなく、企業文化に適合しない人たちから辞めていきます。
一度中の人たちによって企業文化が作られてしまうと、その後も同じ企業文化がずっと続いてしまうということです。
企業文化を決める最も重要な要素はミッションとフィロソフィー、すなわち「企業が果たすべき使命」と「そのための理念」です。日本ではそれぞれ行動指針や企業理念ともいいます。
どんなミッションとフィロソフィーを掲げ、それがどれだけ従業員に浸透しているかが企業文化形成に大きく影響します。
ミッションとフィロソフィーの役割は全従業員の価値観になることです。
話し合いのベースとなり何か迷ったときの判断基準となるものこそがミッションとフィロソフィーです。
このため、最も重要なことを簡潔に示している必要があります。
たとえばGoogleのミッションは次の内容です。
Googleのフィロソフィーは次の10箇条です。
どれもシンプルは一文で簡潔に語られています。
フィロソフィーはそれぞれについて1~2パラグラフ程度の説明がされています。創業当初からあったわけではなく、実績と現在の状況や将来ビジョンを踏まえた説明になっています。
ミッション | 内容の抜粋 |
---|---|
ユーザーに焦点を絞れば、他のものはみな後からついてくる | ・ユーザーの利便性が第一 ・Google 内部の目標や収益ではなく、ユーザーを最も重視 ・金銭と引き換えに検索結果の順位を操作することは一切ありません。 ・関連性の高い情報を邪魔にならない形で提示します。 |
1 つのことをとことん極めてうまくやるのが一番 | ・Google は検索を行う会社 ・複雑な問題も反復に反復を重ねて解決し、すでに膨大なユーザーが情報をすばやくシームレスに検索できているサービスに対しても、絶え間ない改善を続けています。 ・検索分野で培った技術は、Gmail、Googleマップなどの新しいサービスに応用 |
遅いより速いほうがいい | ・ユーザーの貴重な時間を無駄にせず、必要とする情報をウェブ検索で瞬時に提供 ・自社のウェブサイトにユーザーが留まる時間をできるだけ短くすることが目標 ・ページから余計なビットやバイトを削ぎ落とし、サーバー環境の効率を向上 ・さらなるスピードアップを目指して努力を続けていきます |
ウェブ上の民主主義は機能する | ・どのサイトのコンテンツが重要かを判断するうえで、膨大なユーザーがウェブサイトに張ったリンクを基準としている ・200 以上の要素と、PageRank™ アルゴリズムをはじめとするさまざまな技術を使用して、各ウェブページの重要性を評価 |
情報を探したくなるのはパソコンの前にいるときだけではない | ・モバイル サービスの新技術を開発し、新たなソリューションを提供 |
悪事を働かなくてもお金は稼げる | ・検索結果ページには、その内容と関連性のない広告の掲載は認めません。 ・ポップアップ広告は邪魔になってユーザーが見たいコンテンツを自由に見られないので、Google では許可していません。 ・Google が検索結果のランクに手を加えてパートナー サイトの順位を高めるようなことは絶対にありません。 ・PageRank は、お金で買うことはできません。 |
世の中にはまだまだ情報があふれている | ・簡単には検索できない情報に目を向けました ・ニュース アーカイブ、特許、学術誌、数十億枚の画像や数百万冊の書籍を検索する機能 |
情報のニーズはすべての国境を越える | ・全世界のユーザーにすべての言語で情報へのアクセスを提供することを目標としています ・130 を超える言語で利用でき、検索結果を自国語のコンテンツのみに制限できる ・翻訳ツールを使用すれば、自分の知らない言語で書かれた地球の反対側のコンテンツも読むことができます |
スーツがなくても真剣に仕事はできる | ・仕事は挑戦に満ちていなければいけない、挑戦は楽しくなければいけない ・打ち解けた雰囲気の中、カフェ、チーム ミーティング、ジムなどで生まれた新しいアイデアは、またたく間に意見交換が進み、試行錯誤を経て、すぐに形になります |
「すばらしい」では足りない | ・Google にとって一番であることはゴールではなく、出発点に過ぎません ・Google では、まだ達成できないとわかっていることを目標に設定します ・そうすることで、目標達成に向けて全力を尽くし、期待以上の成果を残せるからです ・たとえユーザーが自分の探すものを正確に把握していなくても、ウェブで答えを探すこと自体はユーザーの問題ではなく Google の問題 |
▼英語での表記
英語 |
---|
Great isn’t good enough. |
Focus on the user, all else will follow. |
It’s best to do one thing really well. |
Fast is better than slow. |
Democracy on the web works. |
You can make money without doing evil. |
There’s always more information. |
The need for information crosses all bor |
You can be serious without a suit. |
You don’t need to be at your desk |
企業文化として根付いているミッションとフィロソフィーは変更すると社員から苦情が殺到します。
例えば、Googleのフィロソフィーの「ユーザーに焦点を絞れば、他のものはみな後からついてくる」の「ユーザー」を「広告主」に変えると、激怒した従業員が抗議のメールをしたり不満のあまり会議をのっとることすら考えられます。
なぜなら従業員たちはこのフィロソフィーを支持して集まり、そしてこのフィロソフィーを判断基準にして仕事をしているからです。
ミッションとフィロソフィーは社員募集のときに一番トップにくるべきものである必要があります。
世の中にあるのはGoogleのミッションのように意味を成すものばかりではありません。
それっぽくカッコよく書き上げたところで、従業員に浸透していないことは少なくありません。
例えば、アメリカの大手投資銀行グループで2008年に発生したリーマンショックの原因になり破綻したリーマンブラザーズは次のようなミッションを掲げていました。
私たちは1つの会社であり、クライアント、株主、そしてお互いに対する揺るぎないコミットメントによって定義されています。私たちの使命は、従業員の知識、創造性、献身を通じて、クライアントとの比類のないパートナーシップと価値を構築し、株主への優れた利益につながることです。
We are one firm, defined by our unwavering commitment to our clients, our shareholders, and each other. Our mission is to build unrivalled partnerships with and value for our clients, through the knowledge, creativity, and dedication of our people, leading to superior returns to our shareholders.
他にも、巨額の不正経理・不正取引による粉飾決算により破綻した、アメリカの企業 エンロンのミッションは次のようなものでした。
尊重、誠実さ、コミュニケーション、卓越性
Respect, Integrity, Communication and Excellence
簡潔ではありますが、何をどうすべきかの価値観が全く伝わってきません。
このミッションの「尊重」の部分が「強欲」に変わったところで真剣に怒ってくる従業員はいなかったことでしょう。
Googleのミッションは採用時の最重要事項になるのに対し、リーマン・ブラザーズやエンロンのミッションは採用時にトップにくることはありません。下のほうにチョロっと書いてあるか引用されないことがほとんどです。
成功した企業などが、他の会社もみんなやっているという理由で、人事部門や広報部門に押し付けて作らせたものでは意味がありません。
では従業員に浸透するようなミッションやフィロソフィーを作るにはどうすればいいでしょうか?
重要なのは次の2つです。
企業文化は中の社員によって作られるものです。現在会社を引っ張っている社員がいるのであれば、その人の価値基準こそが現在の会社に合ったミッションやフィロソフィーともいえます。
このため、会社や製品に対して誰にも負けないぐらい強い思い入れを持っている社員に聞くことはミッションを考える重要な手がかりとなります。
そういった社員に次のような質問をしてみるといいでしょう。
逆に、急に何か新しいミッションやフィロソフィーを作ったとしても、会社を引っ張っていく人たちが賛成していないのであれば、そのミッションやフィロソフィーは何の役にも立っていません。
伝説の経営者と呼ばれたGEのCEO 故ジャック・ウェルチはビジョンについて次のように語っています。
ビジョンなどは、繰り返し伝え、報奨によって強化しなければ、それが書かれた紙ほどの価値もない。
つまり紙に書いて飾っておくだけでは、浸透するわけがありません。まだいろいろと書き込んだり、燃やせば火になる紙の方が有用ということです。
何度も何度も従業員に伝え、時に報奨金や制度を上手く利用して浸透させることで、徐々にみんなの中に根付いていきます。
Googleのミッション、そしてそこから形作られる企業文化がどれほどまでに従業員に浸透してるかについては、創業者のラリー・ペイジと従業員の有名なやり取りがあります。
通常、経営者が何か商品の問題に気づいたら、その責任者を呼んで会議を開き、対策を検討し、計画を立て、品質保証のテストを実行するのが一般的です。ですが、ラリー・ページのとった行動は違いました。
ある金曜日の午後、ラリー・ペイジは検索結果を見ていたときに気に入らない広告が表示されたとき、そのページをプリントアウトして、広告に蛍光ペンでマーカーをひき、「この広告はムカつく」と大きく書き、掲示板に貼り付けて、家に帰りました。
従業員の誰かにメールや電話をせず、会議の招集なども開くことはありませんでした。
金曜日の午後にたまたまそれを見たある従業員は、ラリー・ペイジの意見に賛同し、問題が起きた原因を分析し、解決策を考え、土日に同僚を集めた5人で集まりコードを修正しました。
なんとこの5人は広告の担当者ではなく、広告が上手く機能しなくても一切責任をとられることが無い人たちでした。
この5人は「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすること」を使命に掲げる企業が人々が不快に感じる広告を表示していることを問題に思い、自発的に進んで修正を行ったということです。しかも週末に。
ミッションやフィロソフィーが従業員にここまで浸透していれば、企業文化はかなりしっかり醸成されているといえます。
企業文化は企業の成功のためにとても重要です。ですが、その実態は軽視されることが多くあります。
企業文化の一番のメリットは一度定着すれば長期的に長続きすることです。ですが、それは一度根付いてしまうと後から変更することが非常に難しいというデメリットでもあります。
このため、できる限り早い段階でじっくり考え抜いた企業文化を作ることが企業を成功に導く(そのための人材を集める)ためにとても大切です。
企業文化やミッション(使命)、フィロソフィー(経営理念)を決して軽視しないようにし、何度も何度も繰り返し従業員に伝えていきましょう。
この記事の内容はGoogleの経営陣 エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグル、ラリー・ペイジの共著「How Google Works ―私たちの働き方とマネジメント」の内容の一部抜粋と要約です。
一国家と同等な資金を持ち、世界中で知らない人はいないほどのGoogleという大成功企業の中で、
などなど、これからの時代に欠かすことのできない内容がギッシリ詰まった一冊です。堅苦しくなくユーモアがあり読みやすい文体ですので、ぜひ一読されることをお勧めします。