世の中には価値のあるセミナーを無料でやったり、本来お金を支払わなければいけないような点検を無償でやっている人たちがいます。
彼らはいったいなぜこういった価値あるモノを無料で提供しているのでしょうか?
実はその裏には人の性質を巧みに使ったマーケティング手法があります。
例えば火災報知機の無料点検を実施している企業がCMを流していたとします。それを見たあなたは「無料で点検してくれるなんてチャンスだラッキー」と思い、依頼をします。
翌週、サービスマンが火災報知機の点検に来てくれました。家の中の火災報知機を専用の機械で入念にチェックしています。
そして、点検後にこんなことを言い出します。
「この火災報知機は問題なく作動しています。ただ、幾分年数が古いので故障して本来使うべき重要なときに作動しない恐れがあります。弊社に最新のお勧めのモデルがあるのですがいかがでしょうか?」と。
これを聞いたあなたは「丁寧に点検もしてくれたし、たしかにこの人の言うとおりだ」と感じて、最新の火災報知器を買います。
Webサイトで火災報知器について調べることもしなければ、Amazonなどで価格の比較、相場の確認もしていません。
結果として「無料の火災報知機の点検」に申し込んだはずが「最新の火災報知機を相手の言い値で買った」という状態で終わります。
例えば害虫駆除の会社が「屋根裏を無料で点検します」というキャンペーンをやっていたとします。それを見たあなたは「無料で点検してくれるなんてチャンスだラッキー」と思い、依頼をします。
翌週、害虫駆除の会社から作業者が点検に来てくれました。専用の機械を使って屋根裏を入念にチェックしています。
そして、点検後にこんなことを言い出します。
「屋根裏にネズミが侵入した形跡があります。他にも数種類の害虫が見つかりました。家の中に出たら噛まれる危険性もあるので早急に駆除すべきです」と。
これを聞いたあなたは「丁寧に点検もしてくれたし、この業者さんに依頼しよう」と感じて、害虫駆除おを依頼します。
害虫駆除の相場を調べもしなければ、他の企業に頼むということも頭にありません。
結果として「無料の屋根裏点検」に申し込んだはずが「相場も調べずに来てくれた人に害虫駆除を依頼した」という状態で終わります。
人には何かをしてもらったら、お返ししなければいけないと感じる返報性の法則という特性があります。
上記の例のような無料セミナーや無料点検によって私たちの中でどんなことが起こっているかというと、「無料で提供してもらったので、こちらも何かお返ししなければいけない」という義務感が発生しています。
同じサービスや商品を提供している他の業者を調べないのは、無料で参加させてもらった・診てもらったという義務感が発生しているためです。
無料セミナーや無料点検はこの性質を巧みに利用しているわけです。
もちろんただの良心で実施している企業や団体もいますし、提示された価格は適切なこともあります。そういった場合は問題ありません。
ただ、同時に相場よりも明らかに高い値段をふっかけている業者も少なくないということです。
よく「タダより高いものはない」「タダには裏がある」といった言葉がありますが、ご名答ということです。
これらの返報性の法則を利用したマーケティングの対処法は次のようになります。
そもそも、このマーケティング手法を使ってくる人たちがみな悪者というわけではありません。相手の提案にあなたが心から納得したのであれば受け入れて問題ないでしょう。
少しでも違和感を感じたなら、あなたの心理を利用して商品を売りつけようとしているのかもしれません。
まずはそのことを理解することが重要です。返報性の法則は「あなたが感じたこと」に対して発生します。
つまり「無料でやってくれるなんてありがたい」と感じたら「何かお返ししなければいけない」と感じます。
一方、「無料というエサでおびき寄せて何か売ろうとしている」という怪しさを感じたなら、疑り深さを返すことができます。
よくわからない場合は「他の商品や価格の相場がわからないので、調べて必要でしたら後日連絡します」と伝えれば問題ありません。
そう伝えたときに「後日ではダメです」と言ってくるのであれば、あなたをハメる気であることがわかります。
その言葉は裏を返せば「調べられたらうちの商品が高いことがバレてしまう」「企業の評判がバレてしまう」「うちなんかよりいい企業や良い商品があることがバレてしまう」という焦りの裏返しです。
返報性の法則を利用したマーケティング手法の一つに「拒否したら譲歩」という方法があります。
これは、最初に大きな提案をふっかけておいてあえて断らせ、次に本当に提案したい内容を譲歩として伝えるものです。
例えば、家電製品を売っている営業マンが3年の延長保証を売りたいとします。
そうしたらまずは10年の延長保証から勧めます。多くの場合断られるので、そうしたら5年の延長保証を勧めます。それでも断られたら最後に3年の延長保証を伝えます。
すると家電製品を購入した人は「10年の提案から、5年、そして3年に下げてもらったし、こちらも譲歩しないと」と感じます。
そして3年の延長保証を購入します。ですが、営業マンはもともと3年保証を売る気だったのでしめしめということです。
拒否したら譲歩の対策も基本的には返報性の法則の対策と同じです。
相手の譲歩を譲歩として捉えるのではなく、私に売り込むためにあえて高い値段から始めて徐々に下げていく手法だと受け取ることです。
そうすれば、内側から自然と湧き上がってくる「こちらも譲歩しなければ」という義務感を防ぐことができます。
もちろんですが「拒否したら譲歩」のマーケティングや売っている商品自体が悪いモノとは限りません。いいものもあるし、本当に値下げをしてくれたのかもしれません。
このため、理不尽に自然発生する感情を防いだあとで、最後に提示された提案自体の内容が客観的に必要かどうかを判断します。
世の中にはありとあらゆるところに人の特徴を利用したマーケティング手法がちりばめられています。中には酷いものもあるので、カモにならないよう、上記の対策を上手に使っていただければと思います。
この記事の内容はアメリカの有名な心理学者 ロバート・チャルディーニの「影響力の武器」の内容の一部抜粋と要約です。
現代のマーケティングで使われている手法が心理学の面から解き明かされ、たくさんの事例を交えてわかりやすい文章で記されています。
この本の内容を細かく知っているかどうかで、現代の市場に隠されているたくさんのワナにハマりカモになるのか、それを避けて利用する側に回れるのかが大きく分かれます。
気になった方は是非手に取って読んでみることをお勧めします。