自動車やバイクの雑誌の表紙やコマーシャルを見ていると、自動車やバイクの真ん前に魅力的な女性が写っている写真が使われていることがあります。
「これはいったい何の意味があるんだろう?」と疑問に思う方もいるかもしれませんが、あの写真は人間心理を利用したマーケティング手法の一つです。
ここでは、車やバイクの広告で横に女性モデルが立っている理由と、連合の原理という心理用語について解説しています。
車やバイクの広告で魅力的な女性モデルが一緒に写っている理由は「人は魅力的な人を見ると、一緒にあるものまで魅力的だと勘違いするから」です。
一見そんな単純なことで騙されるほど人間はバカじゃないでしょ。と言いたくなりますが、これが人の心理的な性質上おこるのです。
実際、ある研究で、魅力的な女性モデルが一緒に写っている自動車の広告とと自動車だけが写っている広告を見せた後に、車の評価をしてもらったところ、女性モデルが写っている車の方が「速さ、魅力、高級感、デザインの観点で優れている」と評価しました。
ここで一番ポイントになるのが、評価をしてもらった人たちに理由を聞いたところ、誰一人として「女性モデルの存在が、自分の判断に影響を及ぼしたと考えていなかった」ことです。
つまり、私たちは魅力的な人を見ると、無意識のうちにその周りにあるものも魅力的だと思ってしまう性質があるということです。
テレビやYoutubeなどの動画では、魅力的な女性が商品を紹介しているCMが頻繁に流されます。
様々な企業が一見して美しいとわかる女性を使って自社の製品をPRしてきます。これも、自動車やバイクと一緒に綺麗な女性を撮影する理由と同じです。
私たちの脳が勝手に「美しい女性がPRしているもの」=「魅力的でいいもの」という勘違いを起こすからです。
美しい女性を使った、化粧品、サプリ、ジム、食料、お菓子のCMなどあげたらキリがありません。
商品自体はブサイクな人が使おうがキレイな人が使おうが変わりはありません。ですが、キレイな人が紹介した方が売れるのです。
同様に男性向けの商品にカッコいい男性が採用されるのも同じです。カッコいい男性がひげを剃っている姿を見ると、髭剃りと男性のカッコよさは一切関係ないにも関わらず、この髭剃りを使ったら自分もカッコよくなれるかもしれないという思い込みを起こします。
このように魅力的なものを見たときに、それと一緒に写っているものも魅力的だと無意識に勘違いしてしまう人の性質を「連合の原理」といいます。
英語ではassociation of ideasといい「アイデアの連想」という意味です。何か一つの情報があると、自動的にそこから連想してしまうという意味です。
「連合の原理」は人ならば誰でも発生するものですが、その人がどういう印象を抱くかで結果が大きく変わります。
例えば、自動車やバイクの雑誌や広告で女性が一緒に写っていることに対して「これは何の意味があるの?」と思った人は、一緒に写っている女性にあまり興味を持っていない場合が多くあります。
そういった雑誌に写っている女性は比較的、露出度が高くギャル感があるので人によっては好みがわかれるところです。
一緒に写っている車やバイクに魅力を感じるかどうかは、その女性に魅力を感じるかどうかによって大きく変わります。
アメリカの消費研究者 リチャード・ファインバーグはクレジットカードのマークが目に入る場合と、そうでない場合で人々の消費行動がどう変化するか調べました。
具体的には、クレジットカードのマスターカードのマークがさりげなく置いてある部屋で通信販売の買い物をしてもらい、その消費額を調べるというものです。
その結果、マスターカードに好印象を抱いている人は、平均29%もの多くのお金を使いました。なお、被験者たちは部屋の中にクレジットカードのマークが実験の一部として置いてあることに気付いていませんでした。
一方、マークがない部屋および、クレジットカードで嫌な体験をしたことがある人の消費はそれほど多いものにはなりませんでした。
連合の原理はプラスの出来事だけでなくマイナスの出来事にも作用します。
災難な職業の一つに天気予報士があります。天気予報士は気象局から伝えられた予報を、読み上げて伝えているだけです。
にも関わらず、洪水や雨の日が続くと「雨がやまなきゃ殺す」といった電話を受けたり手紙が届いたりすることがあります。
竜巻で家が壊れてしまった人からは「お前のせいで竜巻が来て、俺の家はめちゃくちゃになった」と言われることもあります。
つまり、マイナスの情報を伝えるだけで、その人の印象もマイナスになるということです。
とばっちりを受けているのは天気予報士だけではありません。古代ペルシャの使いも同じです。
古代ペルシャの使いは、皇帝に勝利の報告をする場合は、英雄として迎えられ豪華な食事や美しい女性をふるまわれました。
一方、悪いニュースを伝えるときは冷たくもてなされました。とくに敗北のニュースを伝えるときには使い人は殺される運命にありました。
戦いの勝敗と使い人は一切関係ないにもかかわらず、結果の責任を全て被らなければいけなかったということです。
このように、連合の原理はマイナスにも強く作用するため、ある俳優や女優がスキャンダルを起こすと、全てのCMが即座に放送禁止になり、既に録画されていた番組やドラマまでお蔵入りになります。
CMの撮影も、番組やドラマの撮影もかなりお金がかかるものですが、それを全て停止するほどに、マイナスのイメージは商品など他のものにまで伝搬するということです。
ミニスカートを履いて露出度の高い服を着た魅力的な女性モデルは基本的にスーパーカーやごっついSUVを運転しません。つまり女性モデルと車は一切関係がありません。
このように、私たちの脳の仕組みにとって、関連性があるかは一切関係ありません。
プロスポーツ選手が洋服のコマーシャルに出ていることがありますが、そのプロスポーツ選手は洋服を作ったこともないですし、素材や原料に詳しいわけでもありません。
それでも、プロスポーツ選手の評価が高ければ高いほど、その人が紹介したものは売れます。
誠実そうな女優が保険商品のコマーシャルに出ていることがあります。ですが、その女優は保険の商品を作っている人でも、保険会社の人でもありません。
ただ人に言われたことを、言われたとおりにやる女優です。
それでも、その女優のイメージが誠実そうであればあるほど、その人が紹介している保険商品も誠実そうに見られます。
このように、とても単純なウソによって私たちはいとも簡単に騙されています。
「連合の原理」は私たちが思っている以上に強力です。このため、私たちの生活の至る所で「連合の原理」が使われています。
テレビに映る人たちは好感や見た目を良くしようと必死に努力します。世間からの評価が「ステキ」「カッコいい」「美しい」「誠実そう」というポジティブなものになると、そういった人たちは企業からひっぱりだこになります。
CM1本あたりの出演料は平均5000万円ほどです。よりイメージがいい人になると1億円近い出演料が出ることになります。
少し古いですが2004年の大物たちのCMの出演料は次のようになっています。
出演者 | 出演料金 |
---|---|
松井秀喜 | 1億2千万円 |
明石家さんま | 1億円 |
キムタク | 9000万円 |
所ジョージ | 8000万円 |
藤原紀香 | 7000万円 |
驚くべき程の金額ですが、それほどお金を払っても元が取れるぐらい、いいイメージには商品を売る力があるということです。
「連合の原理」がどのぐらい強力で、私たちがいかに騙されやすいかを理解できる面白い研究結果があります。
それは、お店の前に「セール」と書かれた看板を設置すると、お店の中でセールを一切やっていなくても売り上げが上がるということです。
私たちは頭の中で無意識のうちに「セール」=「安い」と勘違いして、商品をいつもより多く買ってしまうということです。
「連合の原理」に騙されないようにするには、それを紹介している人に注目するのではなく、商品自体に注目する必要があります。
もちろん紹介している人は悪い人ではありません。いい人で信頼でき、好感度が高いからこそ採用されているのです。それは紛れもない事実です。
ただ、その人の評価と製品の品質や使い勝っては一切関係がないため、切り離して考える必要があります。
なお騙されやすい人は次のような反応をするので注意してください。
本当に決めかねてしまいます。ある大スターには禁煙賛成と言わせるし、もう一方の大スターには反対と言わせるんですから。どちらに投票したらいいのかわかりません。
この記事の内容はアメリカの有名な心理学者 ロバート・チャルディーニの「影響力の武器」の内容の一部抜粋と要約です。
現代のマーケティングで使われている手法が心理学の面から解き明かされ、たくさんの事例を交えてわかりやすい文章で記されています。
この本の内容を細かく知っているかどうかで、現代の市場に隠されているたくさんのワナにハマりカモになるのか、それを避けて利用する側に回れるのかが大きく分かれます。
気になった方は是非手に取って読んでみることをお勧めします。